mizuimo’s blog

映画をたまに見る人間の、映画を見た記録

ドライブ・マイ・カー 感想

日本アカデミー賞の受賞インタビューで、西島秀俊氏が「日本映画に身を捧げたい」と話しているのを見た。

そうだこの人は映画の人だったし、今でもそう思っているのか、とハッとして、急に映画館に足を運びたくなった。(私は西島氏が単館系映画に出続けている頃〜ハードボイルドイケメン俳優としてお茶の間の人気者になるまでファンだった。)

 

9時からの回が1回だけ。客入りは6組くらいでまばら。興味ある人はもう見てるだろうし、地方のシネコンだし、こんなものだよなという印象。

 

映画の感想(ネタバレあり)

ずっと静かに淡々と進む中で、それぞれの人の、少しの落胆や悲しみや怒りや困惑はわかって、いつそれが爆発してしまうのか緊張感があった。

音が語るお話は、生々しく想像が出来るのに、語り方のせいなのか白昼夢みたいでとても奇妙な感じ。事の後にいつも話し出すのは、後ろ暗い行為に紐づけてしまっていたからなのか、
家福が気付いていることを分かっていて、責められるのを望んでいたことはそうだろうなと思う

 

北海道まで行くとか言い出すの、広島から二日で足りる?ってびっくりするし、みさきの生い立ちや母にまつわる話はあり得なそうな新事実が小出しで追加されてってこれもびっくりするんだけど、結果的に、北海道に行かないと進めなかった。

自分の一番近しい人を、自分のせいで失った(と思ってる)二人が、慰め合うのではなくて、見ようとしてこなかった自分にそれぞれ向き合ったことで、前を向けてよかった。

二人が雪の中で真っ直ぐ向き合いながら、失った人を思う時には複雑な気持ちが伴うけれど、好きだ、この気持ちはシンプルにある、とはっきり口にすることで新しい感情が溢れていく様子が、印象的で、感動的だった。

 

高槻について。岡田将生・・・岡田将生のあのシーンを見たいが為にもう一度見たいくらい、なんだろうあれ、すごかったな・・
あの、涙がこぼれ落ちそうで落ちない、視点は一点なのに空を見ているような目。

日本アカデミー賞の西島さんのインタビューの中で、一番先に名前を上げたのが岡田くんだった。その時の声に、結構力が入ってるなという印象だったけど、この演技の凄さを見たら、そしてこの賞では岡田将生がノミネートされていなかったことを思えば、力強く名前を呼びたくもなるわ・・と納得しました。

 

高槻は自制心がなくて暴力を働いた瞬間は偶然だったかもしれないが、警察が来ても狼狽えるそぶりもなかったのが不思議だった。
家福の舞台を降りること、舞台に穴が開くこと、家福がワーニャにならざるを得ないこと、全てを望んでいたのかなと思ったけどどうなんだろう、掴めない。

 

舞台の最後、手話で話すところはこの映画の全て言いたいことが詰まってそうだったけど手話を見る西島秀俊の目の演技すごいなとか思いながら見てしまったせいでよく意味が入ってこなかったのでもう一回見たい。

 

最後のシーンは、唐突でここもびっくりしたけど、全く新しい人生を、静かに、でも堂々と、相棒の車と犬と、歩んでいることが分かってジーンとした。(家福が車を手放したことも。)ここも、激しい動きも表情もないけど、継続してある静かで淡々とした映像の中に少しの希望と優しい感情が受け取れて、最初から感じていた緊張感が解けるようだった。

撮影映像は、どのシーンも景色と色合いが素敵だった。海も橋も夜景も、綺麗で気持ちよかった。

 

 

 

西島さんのことを気になりだして本格的に推していた(当時は推しという言葉はなかったけど)のは、そういえばトニー滝谷からだったなと思い返して懐かしくなった。
トニー滝谷村上春樹原作。あの静かで抑揚のない声は、村上春樹との親和性が抜群なのかもしれない。

日本で一番権威のある賞みたいにされている日本アカデミー賞は、基本大衆映画しか相手にしないし、邦画で良作だったとしても話題性や大きなプロモーションがなければ目もくれない印象。今回だって海外の評価がなければ最優秀にはなっていなかったのでは・・と思う。(でも元々そういう賞だとわかっているし映画としての価値は何も変わらない)

すごく偏りがある賞のように私は思うけど、テレビから離れて、映画にコツコツ出て、またテレビで活躍して、今この賞を取ったことは、西島さんにとってやはり感慨深いことなのではないかと、勝手に思って、胸がいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出したので追記

インファナルアフェア日本版みたいなドラマに西島さんが出ていた時、息を吸うようにタバコを吸うような役だったんだけど毎回吹かして吸っていて、絶対に肺に入れるものかという強い意志を感じていたんだけど、今回はふつーに深く吸っていたので驚いた。すごく注目して見たので間違いないと思う。

この映画にとって大事なアイテムだったのは間違いないのだけど(サンルーフから二人で灰を飛ばすシーンはキャッチーでとても素敵だった)

確かに吹かしていると気になっちゃうんだけどだからって体に害があるものを演技のために受け入れないといけないのはしんどいよね・・ちゃんと肺まで吸い込んでいてすごい・・という私の雑念がものすごく邪魔だったな。静かな映画には自分自身の雑念との戦いがある。